坂本冬美 (2011) おかえりがおまもり

 

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坂本冬美さんの「おかえりがおまもり」を初めて聴いたのは、
ビーレエションシップが生まれて、私たちの物語を、なんとか胸の内からすくい上げ、言葉に変えようとしていた頃でした。

”当時の社会の雰囲気の中で、自分たちの考え方が、メインストリームになることはないだろう。
ひっそりと存在するか、できてアンチテーゼかもしれない。
だけど、確かにこの世界に存在するものに、錨を下ろし、出来うる限りの形を持たせたい。
そしてそれは、自分たちが、生きながら死んだ人間にならないため、心を凍らせないため。”

そう思いながらも実際にぶち当たっていた壁は、CSS、PHP、Javaといった未知の言語で、
思い描く理想の状態からはほど遠く、
下がることのできる後ろがない中で、どうしたらいいかわからなくなって、身体が冷たくなって寝る夜に、
この歌が頭の中に響いてきたこともありました。

それは慰めてくれるものではなく、焦燥感を駆り立て、鼓舞する姿でした。

”今のあなたがたの願いは、ないものにしても生きていける。
だけど、その可能性を失った時に、あなたはきっと後悔する。
どうして気がついていたのに、手をつけなかったのか?と。”

 

やがて時が経ち、工房が視野に入り始め、
あるとき、工房が手遊びではなく、
生活をより良くしてくれる 必要なものを、自分たちで考えて作る、という流れに入り、
互いの存在が相互作用を生み、作業に熱を帯びた瞬間がありました。

 

伊都がそれぞれの場所に戻った後、蜂はこの曲を無性に聴きたくなりました。

お茶碗を洗っては、再生して泣いて、
洗濯物を取り入れては、また再生して泣いて、
泣くって結構疲れることなんだな、と、どこかでわかり始めているのだから、もう再生ボタンを押すのをやめればいいのに、
ちょっと動いては、また無性に聴きたくなって、再生して泣いて、と、
ほぼ一日中、そんなことを繰り返した日がありました。

おそらく、数年にわたる緊張が途切れたのだと思います。

辿り着けるのか、間に合うのかさえわからなかった地点に、一瞬でもたどり着けたんだ…、と。

 

この曲は、蜂の胸だけにしまっておきたいような、伊都にも伝えて一緒に聴きたいような、複雑な心境でした。

結局、後悔を残したくないという思いが勝って、次に伊都に会った時に、
「どこの反抗期の中学生ですか?」と聞きたくなるような、ぶっきらぼうな声で、
「これ!この曲、私の気持ちかもしれん!」と言って、曲を再生しました。

音量ですったもんだした後、歌の意味を理解した伊都は、
普段は自分で用意しようとするのに、蜂に、
「甘酒が飲みたいねぇ」と甘えるように言って、にたっと笑いました。

 

時に人は、前に前に、未来へ未来へと進もうとすることがあって、
何が自分を作っているのか、に、目を向けることを忘れる時があります。

それは決して珍しいことではないのだけれど、
「何度でも、何度でも、ありがとうって心を伝えたい」人も、きっといるはずなので、
そうした人に、ありがとうという気持ちを伝えるために、たまには時間を止めることは、
人生の中でもかけがえのない時間であることを、思い出させてくれる曲です。

 

 

 

 

歌詞 川村結花. (2011) おかえりがおまもり. EMIミュージックジャパン.

「よくかえったね
ごはんできてるよ」
なつかしいその笑顔
なにひとつ 言わなくても
わかっててくれるひと

うまくいかず 明日が見えず
一度はすべてを
投げ出しそうになったけど

おかえり その言葉が おまもり
どんなときも
だいじょうぶって
だいじょうぶって
私をささえてくれたから

どうしてもダメなときは
いつでもかえっておいで
あたたかい声にまもられ
きっと歩いて来れたんだと

 

こんなにも小さかったの
なつかしいこの川
こんなにもいつのまに
時は流れてたの

変わらないものはただ
岸辺の匂いと どこまでも続く空

ただいま
幼い頃の わたしに
戻って行く

夢を見つけて 夢に向かって
未来しか見つめてなかったけど
いちばん近くにあった
あの日は気づかなかった
この場所があったからこそ
きっと歩いて来れたんだと

ただいま
声に出せば 涙が
あふれてくる

何度でも 何度でも
ありがとうってこころ伝えたいよ

おかえり いつの日にか
わたしも あなたにとって
さびしさも涙も全部
包む場所になれますよう

あたたかな この場所に今
心から ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりがおまもり」は、坂本冬美さんご自身のことを歌ったことなのではないかなと、勝手に感じているのですが、
ありのままのお気持ちと、プロとしてのあり方との間で、揺れ動いたり、気持ちを切り替えるお姿に、
かっこよさだけでなく、見ている人の心を余計に打つものがあると感じています。

 

観客席から飛んでくる「大丈夫、大丈夫。失敗しても、ええんやで。」という声が優しく響きます。

 

 

 

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